株式会社経営共創基盤(IGPI) プロフェッショナルインタビュー

当事者意識を持った事業化集団の凄み【経営共創基盤(IGPI)/中原大輔氏】

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経営共創基盤(IGPI)ディレクター 中原 大輔 氏

東京大学工学部卒、東京大学大学院 新領域創成科学研究科修士

既存のコンサルティングファームや投資銀行が解決しきれない課題を解決するという問題意識から設立した株式会社経営共創基盤。ハンズオン(常駐協業型)で企業の経営を支援し、独立資本の強みを生かしながらクライアントの持続的な企業価値の向上にコミットする同社において、理系人材が活躍する舞台が広がってきているという。その仕事と求められる資質を、経営共創基盤の最前線で活躍する理系出身の中原大輔ディレクターに聞いてみた。

1.幅広く世の中をみることのできるコンサルティング業界

― 学生時代の研究について聞かせてください。

中原氏:

pro_igpi_nakahara_06「東京大学の工学部機械工学科を卒業し、大学院では新領域創成科学研究科で人間環境学を研究しました。学部時代は生体内で使うバイオマテリアルの研究を、大学院では、空調関係の研究で、メーカーとの共同開発で排熱活用のための熱交換器の研究や、代替フロン冷媒の研究をしていました」

― 就職活動の時期にはどのようなことを考えたのですか?

中原氏:

「二つの選択肢を考えました。一つはエンジニアとしてメーカーに行くこと、もう一つは幅広く世の中を見ることのできる業界に行くことです。後者は具体的には、投資銀行、広告代理店、戦略コンサルティング会社を検討し、四つの業界それぞれ実際にインターンシップに行きました」

― その二つの選択肢ではどちらを選択したのですか?

中原氏:

「メーカーでのエンジニアとしての仕事は、どんどん深い方向に入って行くことになります。あまり世の中を知らない当時の自分は、もう少し幅広く世の中を知り、大局観を持って仕事に取り組んでいきたいと考え、後者を選択しました」

2.会社の中身よりもそこで働く人を見る

― インターンシップの経験はどうでしたか?

中原氏:

「幅広く、その仕事で実際に働く“人”の生の話を聞くことができたので、面白かったです。学生の方にお伝えしたいのは、まずは飛び込んでみることが大切だという点でしょうか。頭でっかちに企業研究だけをして、就職活動をしてみても、結局はよくわからないものです。会社を見ようとするときは、会社の中身も大事ですが、企業の中の人材を見てみることをぜひお勧めしたいと思います」

― それはなぜですか?

中原氏:

「企業の仕事の中身を理解しようと思ってもやはり仕事の経験のない学生にはリアルな実態はよくわからないものではないかと思うからです。それよりも二十数年間培ってきた人物眼の方が的を射るのではないかと思います。その人がどういう価値観で仕事に取り組んでいるか、自分がなりたいと思う将来の姿に近いか、そういった側面で納得がいくかどうかを考えてみるのがいいのではと私は思います。」

― 中原さん自身はどのような感想を持ちましたか?

中原氏:

「それぞれの業種に特徴がありました。学生時代の視点で少し語弊があるかもしれませんが、広告代理店は消費者に向けた“面白いこと”、投資銀行はお金に換算された経済インパクト、そして戦略コンサルは事業の中身自身に関心の中心があるというような印象を受けました。結局は自分にとってどういったタイプが合うのかということだと思いますが、私はその中で相性が合った戦略系コンサルティングファームに就職しました」

3.戦略、会計、法務を包括的にみる経営コンサルティング

― 新卒で入社したコンサルティングファームではどういう仕事をしていたのですか?

中原氏:

pro_igpi_nakahara_03「製造業に強いコンサルティングファームだったのですが、そこでは主に新事業の創出、技術ベースでの事業創出や、既存事業の海外展開といったようないわゆる戦略構築を多く行っていました。大体三か月単位のプロジェクトが多かったので、年間4本くらい取り組んでいたことになります。担当した業界は具体的には化学産業、機械系、輸送機器、食品、飲料などです」

― その後、経営共創基盤(IGPI)に転職していますが、その理由を聞かせてください。

中原氏:

「前職では戦略に関する仕事を行っていました。しかし戦略はあくまで経営の中のひとつのコンポーネントにすぎません。本当に企業の中身を変えるには、戦略だけでなく、組織や会計、法務も変えないといけません。仕事の幅を広げたいと思っていたので、広く経営コンサルティングを行っており、戦略、会計、組織のすべてに関与することができるIGPIに転職をしました」

4.日本発の技術プロジェクトを世界に

― 経営共創基盤に入ってからはどのような業務に取り組んでいるのですか?

中原氏:

「技術に関係のない仕事、ある仕事、両方です。前者の方は、某大手インフラ系企業の内部改革です。新事業運営・実行、管理会計、外部との業務提携など会社の運営に関わる諸々のことを3年間行いました。後者は大きく二種類。一つは大手企業の技術開発/新事業マネジメントで、もう一つは国や世の中の埋もれている技術を世の中に出していくチャレンジです」

― 技術系の二つの仕事についてもう少し詳しく聞かせてください。

中原氏:

「大企業向けの技術の事業化という側面では、技術の価値評価や事業化戦略なども描きますが、弊社の特徴としては日本的組織への対応・挑戦があります。日本の企業は組織のイナーシャ(慣性)が強く効き過ぎてしまっているという傾向があります。その結果、例えば、製販開(製造・販売・開発)がそれぞれ独立し、切り離されてしまって、せっかく新しい取組みとしてプロジェクト体制などを起こしても機能せず、元の木阿弥に戻るということがよく起こります。そこをいい意味での外圧として、それぞれの組織をつなげるということをあの手、この手を使いながら行い、会社を変えていくという仕事です」
「埋もれている技術を世の中が送り出す事業を、私たちは社内的には「I.I.N.E.(イイネ)」と呼んでいます。これは「 Industrial Innovation through Next Entrepreneurs 」の略で、新しい創業によって、産業的にイノベーションを起こしていきましょうという取組みです。国研や大学の持っている埋もれた技術が数多くあります。近年、技術の力でイノベーションを起こした代表的な企業といえばアメリカのGoogleですが、彼らの技術の源泉にはアメリカの国防総省が国防高等研究計画局(DARPA)の予算で作った技術があります。それに比べると日本も科学技術に投資をしていますが、その規模の成果につながっていない点は少しさびしく感じます。日本の科学技術を起点にして、“事業として”価値が出せるもの。そのようなものを何とか作りたいと、産業創出を手伝ったり、独自に投資家として技術ベンチャーに対して投資を行い事業化することにチャレンジしています」

― 「I.I.N.E.」のような取り組みは出色ですね。

中原氏:

「他のコンサルティングファームではやっていないと思います。最近では大学発のベンチャーキャピタル(VC)が出て来ており、取り組む方向性は近いのですが、通常の事業支援も行っており、事業のことが分かるという我々経営共創基盤の立ち位置はユニークかと思います。実際、各大学のVCとは協業関係にあります」

5.組織にディープに入り込むハンズオン

― 中原さんが経営共創基盤で手がけた仕事で面白いと思ったものを教えてください。

中原氏:

pro_igpi_nakahara_05「前職の戦略コンサルとの比較で言うと、人との接点の深さに面白さを感じています。戦略コンサルはよくも悪くもアウトサイダーとして会社の外から正しいことを言うという立ち位置によって会社を変えていくのが仕事です。ただ外から言われてもそうそう変わるものでもないという側面もあります。一緒になって事業を推進・運営していくと、うまく回り始め、結果的に皆が乗ってくることがあります。新しい事業部ができ、営業成果が表れ、組織として波に乗ってくるという経験が、ぐっと面白さを感じた経験でした」

― 経営共創基盤の事業の特長を教えてください。

中原氏:

「人や組織に入り込むのが一番の特長だと思います。我々はそれを『ハンズオン』と呼んでいます。普通の戦略コンサルはアウトサイダーとしての価値があります。組織の権力構造から外れている立場からものを申すことでインパクトを及ぼすということで、これはこれで価値があります。しかしインサイダーにならないと変えることのできない組織の中の(政治的な)事情というのもあります。ハンズオンと呼んでいるのは、我々が時には社員として出向しながら、社員と一緒にステークスホルダーとしてピュアに正しいと思うことを言っていきながら会社を変えていくということです」

― 経営共創基盤でない戦略コンサルでも常駐しているところもあるのではないでしょうか?

中原氏:

「一つ大きく違うのは、我々は独立資本であるということです。いわゆる戦略コンサルはすべてプロジェクトベースでお金が動いています。自転車操業で、プロジェクトを切られると苦しくなります。その観点で特性をよく表しているのが、外資系戦略コンサルファームで言う『クライアントファースト』です。それはクライアントを第一にしましょうという理想を示すものでもあるのですが、クライアントのいうことは断れないという、やもすると御用コンサル的な要素を持ってしまう側面があります。我々はそれに対局となる概念として『当事者意識』という言い方をしています。我々自身が事業の推進者だったらどうするのかという視点です。我々は独立資本を持っているので極論すると、好き勝手に言うことができます。この会社のこういうところが間違っていると言い切ることができることが特徴になります。もちろん、我々の立ち位置にもリスクがあり、本当に我々が言っていることが正しいのか、クライアントに任せるべき範囲なのではないか、という課題や矛盾を抱える可能性をはらんでいます。そこは我々自身を社外も含む経営諮問委員や監査役の方からの監視に置くこと、一人一人の社員が我々の信条を凝縮した8つの質問という問いを掲げることで対応しています。クライアントファースト、当事者意識、双方いい点、悪い点がありますが、独立資本を持っていることに起因し、当事者意識に強い信条を持っていることがIGPIの特徴です」

6.「当事者意識を持った事業家集団」

― 経営共創基盤は自社の業務をどのように定義づけているのでしょうか?

中原氏:

「一言で定義するのが難しいのですが、コンサルという言葉はあまり好きではありません。当事者意識を持った事業家集団』という表現がIGPIらしいかも知れません。コンサルという言葉は相談するという意味ですから、相手あってのことです。しかし我々自身が事業の推進者になる構えでいます。『I.I.N.E.』では投資家として世の中を変えていき、大企業の組織をつなげる作業も、煙たがられながらも物事をズバズバいいながら会社を変えてく。それが我々の存在価値です」

― 素晴らしいコンセプトですが、実際にそのようなことができるのでしょうか?

中原氏:

「IGPIは産業再生機構のメンバーが起こした会社です。再生は経営機能の側面でいうと戦略も会計も法務も全部ひっくるめて判断していかないといけないのですが、そのDNAが色濃く残っていると思います。再生環境では、四の五の言わず、進めなければ資金繰りが間に合わず、会社がつぶれてしまうという現実があります。そこで、それぞれの組織を守る言い分を聞いていると何も決まらなくなってしまうので、我々ならこうやりますと言い切ってしまってようやく会社が前進します。これが当事者意識と言っている部分に現れているかと思います。再生環境にある企業だけでなく、日本の企業には同じような組織の構造の悩みを持った会社があるので、我々のような会社を必要とする場があるのだと思います。」

7.コンサルティングに欠かせない「仮説思考」

― そうした経営共創基盤の事業に理系としてのバックグラウンドは生かされていますか?

中原氏:

pro_igpi_nakahara_04「理系人材としての適性の視点ですね。そもそも理系の方は論文を書いていますが、その過程では『仮説思考』でものを考えているかと思います。色々な背景から仮説の切り口を考え、それを検証するという作業があります。それは戦略を考える作業と同じです。同じことが企業改革でも言えるかと思います。企業はそれぞれ独立したシステムが成立しているのですが、それが使い古されたり、世の中が変わったりするとうまくいかなくなっていきます。それに対してこの部分をこう変えるとうまくいくのではないかと、事業、財務、法務など、様々な側面から仮説を立てながら会社を新しいシステムに変えていく。頭の使い方は、極端に言ってしまうと、論文を書くプロセスと同じです。他方、難しいのは高度なコミュニケーションが要求されるということです。やはり泥沼のような状況に入ることもあるので、色々な人と真摯に対応し、その人を変えていける姿勢を持つコミュニケーションが求められます。その部分はとても難しく、私も苦労してきた側面です。おおむね理系の方は思考のプロセスの側面で素地があるので、とても向いていると思っています」

8.技術を事業化してイノベーションを

― 中原さんはなぜこの仕事をしているのですか?

中原氏:

「技術に対して生き生きとしたエンジニアが減っているのではないかという感覚を持ったのです。その理由の一つは大きな視点で言うと、技術の限界効用の低減ということがあるのだと思います。技術だけでイノベーションを起こすのが難しくなってきており、技術・事業化・社会実装と社会との接点を持つ領域に価値の源泉がシフトしてきているのではと考えています。最近のIoT(モノのインターネット)でもスパイラル型と弊社では言っているのですが、社会的に使われるデータが蓄積されて初めて技術が良くなり、それが社会に還元されてという形で技術と社会が双方向性に進化していく流れがあります。となると技術だけで勝負するのは難しくなっていき、技術者が活躍するには社会との接点をつなぐ存在が必要になってくると思うのです。私が取り組みたい仕事の一つに、技術と社会をつないで、価値を生み出したいという仕事があります。」

9.技術の産業化に取り組む三つのアプローチ

― 経営共創基盤は技術の事業化に対してどういうアプローチができるのですか?

中原氏:

pro_igpi_nakahara_02「三つのアプローチがあります。一つは戦略的な意思決定。世の中が速いスピードで動いていくのに、日本のサラリーマン的合議制では新しいものを決める意思決定に課題があります。欧米はもとより、韓国、中国なども大胆な意思決定で競争を加速させています。いかに意思決定を促すか。IGPI流の当事者意識が解決策の一つになると思っています。もう一つは組織の話。目の前の上司のことを意識すると全体最適にならないので、それを変えていきます。そして三つめが政策的な話です。直接的、間接的なもの、両方がありますが、弊社のパートナー陣が様々な政策に関する委員を担っていたり、先ほどお話した「I.I.N.E.」などのように、産業政策と志を同じくした取り組みを行っています。上記の三つのアプローチで技術の産業化に取り組めるのはIGPIならではだと思います」

10.理系人材にチャンスのタイミング

― 経営共創基盤では実際に理系人材は多いのですか?

中原氏:

「現状では事実としては、文系出身者の方が多いです。一方で、IGPIの取り組みは社会課題のあるところです。そして先述の通り課題はあるのですが、技術者と突っ込んだ技術の話ができ、経営の視点でも考えることができる人材は希少性があります。そういう意味ではチャンスですね」

11.自分の価値の言語化を

― 経営共創基盤ではどのような新卒採用・育成をしているのですか??

中原氏:

pro_igpi_nakahara_01「新卒採用はインターンシップを通してというのが多いです。入社後は一か月程度入社時研修を行います。ここでは戦略的なこと、会計的なこと、法務的なことのすべてを行い、戦略ケーススタディーなども行います。この一か月の間にIGPIで求められる幅広いスキルセットを学び、残りは各プロジェクトに出てOJTで学びます。文系理系問わず、皆ゼロからの横一線のスタートなので、理系だからと言って心配する必要はまったくありません」

― その後のキャリアはどのように形成されるのですか?

中原氏:

「我々の業務はハンズオン型が多いので、プロジェクト自体のスパンは長いのですが、新卒はある程度ローテーションをします。3か月程度を単位に色々とやってもらいます。戦略、M&A、ベンチャー投資など一通りやって頂き、その後は個人の特性ややる気を鑑みてアサインメントが決まります」

― ディレクターとしてはどのような人材が欲しいですか?

中原氏:

「私たちの仕事の基本は企業の中を変えていくという意味では戦略作りというよりも人づくり・組織づくりです。そのためにはコミュニケーションとやり切る力がとても大切になります。相手と一人間としてどれだけ真摯に対話ができるかが重要です。またプロジェクト中には不測の事態が発生するもので、必ず苦しい状況が生まれていきます。プロジェクトがうまくいかないこともあれば、組織の軋轢に挟まれることもありますが、最後までネアカにポジティブでやり切ることは大切だと思います。表層的なスキルとしては先ほどお話した仮説思考もできるといいですね」

― 学生にキャリア形成上のアドバイスはありますか?

中原氏:

「人との接点の数を増やした方がいいかと思います。自分はどういう人材になりたいのかをイメージすることが大切ですが、学生時代は学生のコミュニティーしかありません。でも新卒であればノーリスクで色々な人の話を聞くことができるという特権があります。どのような人材になりたいのか?技術者になりたいのか、技術を事業化する人になりたいのか?研究室にこもっているだけではわかりません。実際に色々な人と会ってみて、自分が憧れるような存在はどういうような人なのかというイメージを作ることは大切です。その上で、自分がいいなと思う人が多くいる会社や組織を選ぶことをお勧めしたいと思います」

― 最後に何か学生にメッセージはありますか?

中原氏:

「これから社会に出るにあたって、自分のやっていることが社会にどんな価値を持っているのかということを常に考えるようにしてください。今から30年後に入社した会社が残っているとは限りません。会社がつぶれた時に自分の価値を説明できるようになっていれば、転職でも起業でもできます。でもそこが曖昧だと会社と一緒に沈むより他ありません。企業は効率よく組織を回すためには、歯車が必要な側面もあります。しかしタスクの歯車となった瞬間、外では生きていけません。個人としての自分の価値を常に考え、歯車になるのではなく、それを作る立場になって、素晴らしい社会人生活を送れるようにしてもらえればと思います」

― ありがとうございました。(了)

 

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