長谷川香料株式会社 プロフェッショナルインタビュー

人々に愛される香りづくりでヒット商品を陰から支える【長谷川香料株式会社】

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日本国内の香料市場第2位で、国外でも大きく展開する香料メーカーの長谷川香料株式会社。飲料・食品などに使用される食品香料を開発製造するフレーバー事業の他に、化粧品、ボディーケア製品、入浴剤などに使用されるフレグランス事業を展開している。お客さまは最終製品を作る飲料メーカー、お菓子メーカー、化粧品メーカー、トイレタリーメーカーなどにおよび、その用途は多様だ。たとえば同じイチゴの匂いの香料を作る場合でも、イチゴの品種にまで細かくこだわってリアルに作る場合もあれば、かき氷のイチゴシロップのような子どもたちがよろこぶファンシーな仕上げの香りにすることもある。目に見えない「香り」というものを取り扱いながら、お客さまの細かいニーズにオーダーメイドで応えていくだけに、その開発は一筋縄にはいかない。
長谷川香料では明治36年創業の110余年に渡る伝統と技術に基づき、研究開発部門、製造部門、営業部門が一体となってお客さまのリクエストに応えている。今回は機電系の学部出身でありながら、長谷川香料の伝統を引き継ぎ、その確かな製品力を支える理系人材をご紹介する。

 

― 学生時代にはどのようなことを学んでいたのですか?

「大学の研究室では管内走行用ロボットの研究をしていました。たとえば年末によく道路工事を行っていますが、そうした工事を減らすために内部を調査したり、危険施設の冷却用の配管を調査したりする作業をロボットにさせるというような研究です」
 

― 機電系の勉強をされてきたようですが、なぜ長谷川香料に入社しようと思ったのですか?

「私は工業高校に通っていたのですが、その授業の一環で長谷川香料の板倉工場へ見学に行く機会がありました。それまでは香料と聞くと香水などのフレグランスを思い浮かべていたのですが、その工場見学で食品に入るフレーバー製造を見て衝撃を受けました。自分が好きだったジュースや何気なく口にしていたものにもフレーバーが入っていることを知り、とても身近に思えて以来入社したいと思っていました。高校卒業時に就職することも考えました。悩んだ結果大学に進学しましたが、入学当初から長谷川香料への就職を考えていました」
 

― 具体的にはどのような就職活動をしたのですか?

「長谷川香料に関して言えば、社員の話を聞こうと思い、活動しました。板倉工場が高校の近くにあったので、誰かそこで働いている人がいるはずだと調べたら案の定友人のお父さんが働いていることがわかったんです。そこで実際の業務の内容などを聞いていたので、会社に対する明確なイメージを持つことができました。
ただ学生時代に勉強してきたことが分野違いだったので、採用してもらえるかどうかは心配でした。自動車の部品メーカーやカメラ業界など幅広く色々な会社も受けましたが、第一希望は長谷川香料でした」
 

― 実際に長谷川香料に入社した後はどういう仕事をしたのですか?

「まずは三か月の集合研修がありました。採用は営業事務職、研究職、製造職と職種別で行われるのですが、三か月の集合研修中は職種に関係なく、全新入社員が製造現場など各部署を先輩社員に付きながら周りました」
 

― 研修の後は本配属ですか?

「はい。研修終了間際に配属が発表されました。学生時代の専門や研修中の様子を見て適性を考え、配属が決まるのだと思います。私は最初の配属から一貫して製造職の抽出部門で働いています」
 

― 配属後はじめて実務に携わっていかがでしたか?

「正直、きついなというのが第一印象でした。私は決して体力がある方ではないのですが、新人なので体を動かす仕事も多く大変でした。たとえば香料の抽出のための原料仕込みで、20㎏入りのお茶の葉を装置に入れたりしなければなりません。それを合計何百キロ分やったりしました。配属になったのが夏場で、体力的に大変でした。それでも初めて自分が携わったものが抽出されたときは感動しました」
 

― 抽出とは具体的にどのような作業をするのですか?

「一言で抽出といっても、原料によって製造工程が違います。また同じ原料でも求められる香料の種類によっても工程は違ってきます。一般的な抽出エキスは水やアルコールなどの溶剤で抽出し分離、濾過、濃縮、殺菌、充填といった工程を経て製品となります。抽出方法には撹拌、循環、浸漬抽出などがあります。また分離工程についても製造品目、製法や製造量の違いにより装置を使い分けて製造をしています。小型抽出の数キロ単位から大型抽出の数トン単位まで幅広い製造量に対応しています。香りだけで味の成分を含まないエッセンスとは異なり、これらのエキスは抽出した原料の味もします。こうした作業は基本的に専用ラインで行うものではなくほとんどが手作業で行っています」
 

― そうした作業は、多分に職人的な勘や経験が要求されるように聞こえますが?

「今となっては何となしにやっていることも、最初のうちは先輩の指導なしではできませんでした。そういう意味では勘や経験が必要だと言えるかも知れません」
 

― 具体的に最初の頃はどういうところで苦労したのですか?

「もちろん製造を行う上でマニュアルに相当する作業手順書というものがあります。この作業手順書は製造基準書を基に書かれているのですが、それでも微妙な案配を伝えるためにされている表現が、読んだだけでは理解しきれないものがあります。例えば『ブツブツがなくなったら』というように表現されていることがあるのですが、実際にその状況を見るまでは、手順書を見ただけでは完全には習得できない部分があります。そのように経験を積まないとどうにもならない部分はあります」
 

― かなり職人的な技術も要求されそうですが、一人前になるまでに何年くらいかかりましたか?

「今の部署に異動してから7年くらい経ちますが、4年以上経ってようやくそれなりにできるようになった気がします。ただ香料といってもかなりの品目数があり、担当したことのないものもあれば、数年に一度しか製造しない香料もあるので、覚えなければいけないことはまだまだあります。そういう意味では今でも決して自分のことを一人前とは思っていません」
 

― 新しい製法に取り組む以外に、どのようなチャレンジがあるのですか?

「日々様々な業務改善に取り組んでいます。その他にもたとえば新しい香料を製造することになったとき、研究開発部門にて決定した製法を基に製造を行いますが、製造現場になるとラボスケールの何百倍、何千倍の規模になるので、かならずしも研究からの指定の製造がうまく機能するとは限りません。そうした場合に、研究開発部門と製法についての細かな調整を行い、製造現場にあった形に作り変えていくというようなこともします」
「また現場では、いくつもの香料を同時進行で製造していきますので、その中で製造工程をコントロールしながら品質を安定させることに細心の注意を払っています」
 

― これまでの仕事で印象的だったものはありますか?

「入社後1年ほどで、新工場の立ち上げに携わる機会に恵まれました。新工場では、最新の装置を導入するにあたって、プログラムの検証作業などを行いました。新工場の立ち上げに携わることはなかなかできないことなので、それを入社後間もなくの頃に経験できたのは、とても貴重な体験でした」
 

― 現在の仕事は、具体的にどのような働き方をしているのですか?

「今の仕事ではほとんどが現場にいて、机に向かうことはあまりありません。自分が担当する場所で仕事をすることがほとんどです。働き方としては、私の所属する部署では3交代制で働いています。香料を作るとき、工程を止められない作業もあるので、24時間体制で稼働しています。具体的には月曜日の朝から土曜日の朝まで工場が稼働しています。一組7人のチームが三組あります。一週ごとに仕事をする時間帯が変わっていきます」
 

― 仕事は一人で黙々とこなすようなものですか?

「部署にもよりますが私のいる部署は7対3くらいの割合で、個人でやる作業の方が多いです」
 

― こつこつとこなすのが得意なら、コミュニケーション能力はあまりいらないという感じですか?

「いえ、コミュニケーションが取れることはとても大切です。3交替を行っていますので次の担当者へ作業の引き継ぎも含めた報連相(報告・連絡・相談)がとても大切です。また仕事も一律に割り振られるわけではなく、組の中でそれぞれのレベルにあった仕事をすることになるので、コミュニケーションを取り合うことはとても大切です」
 

― どういった人が向いていると思いますか?

「今お話ししたとおり、まずコミュニケーション能力があることは大切です。また、忍耐強さも必要だと思います。先ほどお話ししたように、若い頃は体力的にきつい作業もありますし、香りを扱う仕事なので匂いが強いこともあります。特に香辛料の抽出を行うときはとても匂いが強いものもあります」
 

― 実際にはどういう人が多いですか?

「明るくて気さくな人が多いので、とても働きやすい職場です」
 

― どのような人に長谷川香料に入社して欲しいと思いますか?

「一番来て欲しいのはやる気があり忍耐力のある人です。それから常識を持って、集団行動ができる人だと嬉しいですね。やはり仕事は一人ではできないので、集団で動くことが必要になる場面もあります。もっとも私自身入社当時、どこまで集団行動ができていたのか正直自信はありませんが(笑)」
 

― 専門に関してはいかがですか?機電系出身ですが苦労したことはありますか?

「私が機電系だったので、化学の知識については学生時代に食品化学を学んでいた同僚が酵素などの知識を当たり前のように知っているのを見て、勉強をしなければいけないなという思いは抱き続けています。しかし逆にいいこともありました。たとえば抽出部門に欠かせない作業手順書は、緻密に書かれておりフロー図もよく出てくるのですが、システム工学も勉強していたので、フロー図の読み込みにはまったく苦労しませんでした。そういう得手不得手は誰にもありますが、基本的には先輩社員がよく仕事を指導してくれるので、心配することはないと思います」
 

― 今後の仕事の目標はありますか?

「短期的なものと長期的なものがあるのですが、短期的にはリーダーとしてより成長していきたいと思っています。今は組の中で一番上の立場だということもあり、指示を出すのですが、当然伝わるだろうと考えて出した指示がうまく相手に伝わっていなかったことがありました。リーダーという立場として、もう少しうまく指示が出せるようにならなければいけないと思っています。次に中長期的なことです。私は現場での仕事が好きなので、できるだけ長く現場の仕事をしたいと思っているのですが、いずれ管理職に就くかも知れません。実際に管理職に就いても今の気持ちを忘れずに現場が働きやすい環境を作ってあげたいと思っています。これまでも諸先輩方が、作業の方法や職場環境の改善を重ねて、今私が働いている体制があります。それに甘んじないで、110年以上続く伝統を今後より発展させられるように、よりいい現場を作っていければと思っています」
 

― 就職活動中の学生に何かアドバイスはありますか?

「就活中はついつい多くの会社にエントリーすることを考えがちですが、まずは行きたい会社を見つけられるといいと思います。その上で、その会社のことをよく調べて、なぜ行きたいのかを自分の中ではっきりさせるようにしてみてください。そしてその気持ちがはっきりしていて、それを伝えることができれば熱意は伝わると思います。この会社に入りたいんだという気持ちを出すことが大切だと思いますので、やみくもに沢山受けるのではなく、しっかりとした気持ちで面接に臨むことができるようになることがより重要だと思います」

「また専門が少しくらい違うと思っても、入りたいと思う会社があったらチャレンジすべきだと思います。私自身、学生時代に勉強したことと違うことをしなければいけないので、大丈夫だろうか、やっていけるだろうかと心配していました。でもいくら勉強してきたことが生かせるつもりで会社に入っても、専門が生かせない部署に配属になることもありますし、専門が少しくらいずれていても気にする必要はないと思います。学生時代に学んできたことよりも、入社後に学ぶことの方が多いですし、長谷川香料ならば先輩もとてもよく仕事を指導してくれるので、学生時代の勉強分はすぐに取り返すことができます」
 

― 最後に長谷川香料の魅力をあらためて教えてください。

「あらためてそう聞かれると照れくさいですが、真面目にお答えします。香料は普段意識する事がないほどさりげなく生活の色々なところで活躍する大切なものだということを知り、目立たないながらも人々の生活に役立つ仕事をしてみたいと思ったことが長谷川香料に入社した動機でした。ですから最終製品を作るメーカーと違って、あくまで縁の下の力持ちだというイメージを持って入社しました。しかし入社して11年経った今、縁の下の力持ちの力がここまですごいものなのかと、香料のすごさをあらためて実感しています」

「古い話ですが、私が入社するときの内定式の日に、コーラ風味の香料を調合するワークがありました。その時のことを今でも忘れられないのですが、一滴でも違う香料が入ると、まったく違うジュースになってしまうということを知り、香料の偉大さを思い知らされました。11年経った今でも、その偉大さを忘れないで仕事をしているので、そのことに真摯に取り組んでいる長谷川香料で働いていることを誇りに感じていますし、仕事と会社が益々好きになってきています」
 

― どうもありがとうございました(了)

 

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